AI活用で結晶成長*にアプローチ!次世代に活躍するSiC
次世代と言われるIoT*や5G*の社会に不可欠な、革新的な省エネルギー材料の開発が待たれていますが、宇治原研究室では、省エネルギーを飛躍的に可能にするSiC(シリコンカーバイド)の結晶成長にAIを活用し、20年とも30年とも言われていた、きれいで大きなSiC結晶の合成法開発期間を、1/10~1/100程に縮められる見込みで研究に取り組んでいます。
1.はじめに
間もなく迎えるIoTや5Gの社会には、通信容量が大きく、放熱のロスが少なく、小さくて軽く、寸分の狂いも生じない、それらの条件を全てクリアするデバイスに必要となる、革新的な省エネルギー材料の開発が待たれています。
また、国の試算では、電車やエレベーター、電気自動車、大きな工場などのインバーターを、全て質の良い材料に換えたら、日本全体の1/5程度が省エネになると伝えています。
現在、SiCパワーデバイス*はすでにJR山手線(東京)や新幹線など一部で使われていますが、品質をもっと高めることができれば、性能が良くなる上に安価になります。
身の回りの物でも、例えばノートパソコンのコードには、壁から出ている100Vの電圧を16Vに変換するための四角い箱形の変換部分が必ずついていますが、これを質の良いSiCデバイスに変更できれば、本体に入ってしまうほど小さく軽くなり、電気のロスも大変少なくなります。
2.研究背景
◆新素材開発は非常に時間がかかる
新素材開発は大きく分けて ①どのような物質が役に立つかを見出す、材料設計・探索の段階 ②見出された物質を役に立つ材料として合成する方法を開発する、材料プロセス開発の段階の、2つがあります。材料開発には20年から30年を必要とするとしばしば言われますが、その大半は、プロセス開発に費やされることになります。
◆きれいで大きなSiC結晶成長させる条件を制御するのは困難
我々のグループでは、SiCの高品質な結晶成長技術は確立したのですが、実用化に向けては結晶の大きさが十分ではなく、大型化を実現させるためのさらなるプロセス開発を行う必要があります。しかし、それには1800℃もの高温の液体の組成分布や温度分布、流れの分布などの条件を、ものすごく丁寧に丁寧に、ち密に制御する必要があるのですが、中も見えないですし、勘に頼るしかない部分が多くそれは大変困難です。
3.リアルタイム映像化
ここに、我々が開発した、AIを活用したパラメーターの予測システムを導入しますと、予測にかかるのは0.03秒なので、これまで見ることが叶わなかった装置内部の様子を、ほぼリアルタイムで映像化して、大変正確に伺い知ることができます。
また、映像化に際し、プロジェクションマッピング*の技術で、実際に結晶成長を行っているるつぼのあたりに映像を映すことにより、あたかも結晶成長させている様子を目の前で見ているかのごとく実感でき、これまで「勘」に頼っていたような直感的な制御もできるばかりでなく、それを数値化することも可能になります。新しい形のその場観察、「診える化」が可能になったということです。
4.今後の展開
本研究により、高品質なSiCの開発が飛躍的にスピードアップします。また、本手法は、SiCだけではなく、現在、名古屋大学を中心に研究開発が進んでいるGaN(窒化ガリウム)に関するプロジェクトにおいても応用ができます。さらに、本手法は液体に限らずガスなどの流体を扱う結晶成長プロセスや、熱拡散を扱う熱処理プロセス、そのほかにも鋳造や金属加工などにも応用が可能です。