機械学習

実験に最適な条件を圧倒的に早く導くAI

宇治原研究室では、IoT*や5G*の社会に不可欠な、大きくてきれいな結晶成長、高品質な材料を作製するための環境や条件のシミュレーターとして、AIを活用しています。結晶成長、材料加工、デバイス作製など、新しい材料の開発には、得てして果てしなく膨大な時間と労力が必要となるからです。これにより、新しい材料の合成法の開発期間を、1/10~1/100程に縮められる見込みです。

*IoT=Internet of Thingsの略。直訳すれば「物のインターネット」となりますが、パソコン類以外の「物」が、センサーと通信機能を持ってインターネットにつながること。それにより、人間が遠く離れた「物」の様子を知ることが可能になり、さらに「物」をコントロールすることにより、より安全で快適な生活が可能になります。
*5G=通信システム(インフラ)と携帯端末の両方を、根幹からそっくり入れ替え、大幅な通信速度向上を実現する節目とその仕組みを“世代”(Generation)と呼んでいます。現在日本で主流なのは第四世代、いわゆる「4G」ですが、IoT社会が進み、自動運転や遠隔手術、8K映像の伝送など、「遅れることなく、正確に、同時に多数、大容量の情報を伝達する」ことを可能にする、2020年の開始を目指している通信システムのこと。

.研究背景

IoTや5Gの社会では、これまでよりも格段に、通信容量が大きく、放熱のロスが少なく、小さくて軽く、寸分の狂いも生じない、それらの条件を全てクリアするデバイスを作ることが不可欠となります。

即ち、新素材の開発が大変重要となりますが、そこには ①どのような物質が役に立つかを見出す、材料設計・探索の段階 ②見出された物質を役に立つ材料として合成する方法を開発する、材料プロセス開発の段階の、2段階があります。特に、その大半は材料プロセスの開発に費やされ、20年から30年を必要とするとしばしば言われます。

2.機械学習(AI)*への取り組み

自動車の研究開発が加速度的に進んだ背景には、高精度のシミュレーターの実現があります。我々は、そこに着想を得て、AI(人工知能技術)の機械学習を新材料開発に用いるために学習し、装置内部の状態を瞬時に予測するシステムを開発しました。

図は、SiC結晶成長中の、るつぼ*内部の高温液体の温度分布と流れ分布のシミュレーション結果と予測結果の一例です。色のコントラストが温度を示し、矢印が流れの向きと大きさを示しています。ここでは、高温液体の右半分だけを計算していますが、シミュレーション結果と予測結果がほぼ一致しており、予測の精度が極めて高いことがわかります。これは、実際に実験に取り入れて進めている「(世界一きれいで大きな)SiCの結晶成長」(リンク)のデータです。

*機械学習(AI(人口知能))=AIは、「人間のように考えるコンピュータ」を生み出そうとしている過程で生まれました。音声認識、文字認識、かな漢字変換、検索エンジンなどから、お掃除ロボット、自動車の自動運転、感情を持つロボットも研究されています。また、①特定の役割を早く正確に判断する「機械学習」と、②判断軸すらも自発的に創り出し、自発的に学習していく「深層学習(ディープラーニング)」に、大きく分けることができます。
*るつぼ=理化学実験や鉱工業において、高熱を利用して物質の溶融・合成を行う、湯のみ状の耐熱容器のこと。

我々の実験には、次の技法を取り入れています。

■ベイズ最適化

ベイズ最適化(Bayesian Optimization)とは、過去の試行結果から、次にどこを調べれば良いかを、確率分布と獲得関数にもとづいて決める手法。 これにより、比較的少ない試行回数で、効率的により優れたハイパーパラメータが選べるとされます。

■ニューラルネットワーク

人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)とそのつながり、つまり神経回路網を人工ニューロンという数式的なモデルで表現したもののこと。人間の脳のしくみから着想を得たもので、脳機能の特性のいくつかをコンピュータ上で表現するために作られた数学モデルです。

3.今後の展開

ここで用いている機械学習は、あらゆる材料プロセスに応用が可能です。