欠陥評価

GaN(窒化ガリウム)の結晶を壊さずに欠陥を検出する技術を開発

次世代の超高速通信が実現する5G*の社会に不可欠な、革新的な省エネルギー材料として、GaN(窒化ガリウム)半導体のさらなる高性能・高寿命化に期待が寄せられています。そのためには、欠陥(結晶構造の乱れ)の少ない単結晶のGaN基板の確立が必要です。

宇治原研究室では、開発のために重要な役割となる評価の面で、ラマン分光分析*という手法を用いて、これまでのような大型の装置を使用したり、試料を破壊することなく、GaN結晶の欠陥を検出する技術を開発しました。

*5G=(5th Generation)通信システム(インフラ)と携帯端末の両方を、根幹からそっくり入れ替え、大幅な通信速度向上を実現する節目とその仕組みを“世代”(Generation)と呼んでいます。現在日本で主流なのは第四世代、いわゆる「4G」ですが、IoT社会が進み、自動運転や遠隔手術、8K映像の伝送などなど、「遅れることなく、正確に、同時に多数、大容量の情報を伝達する」ことを可能にする、2020年の開始を目指している通信システムのこと。
*ラマン分光分析=物質に光を入射したときに跳ね返る光の中に、弱いけれど他と異なるといった光があり、入射光との波長差は、物質が持つ分子振動のエネルギー分に相当するため、分子構造の異なる物質間では、異なる波長を持ったラマン散乱光が得られます。それに加え、ラマン散乱光を用いて、応力、温度、電気特性、配向・結晶性などの様々な物性を調べることができます。

1.研究の背景

窒化ガリウム(GaN)半導体は、よりエネルギー損失の少ない電力変換デバイスや超高速通信を実現する5Gの社会に必要不可欠な材料として注目されており、GaN半導体の高性能・高寿命化が期待されています。そのためには、欠陥の少ない単結晶のGaN基板を作ることが不可欠です。しかし、その欠陥を検出するためには、大型の装置を用いたり試料を破壊したりする必要があったため、より簡便な手法が求められていました。

2.結晶の欠陥測定法

宇治原研究室では、開発のために重要な役割となる評価の面で、ラマン分光分析という手法を用いて、ほんのわずかな、これまで誰もが見逃していたズレやゆがみをきめ細やかに、そして根気よく測定を行うことで、欠陥を検出する新たな測定法の確立に至りました。

GaN半導体結晶の(a)エッチピット像と(b)ラマンマッピング像

(a)は、KOHに結晶をつけると、欠陥に穴が開くことはよく知られており、欠陥の位置がわかります。(b)は、ラマン分光分析で発見した欠陥。左右を比較すると、位置が一致していることがわかります。

3.今後の展開

本手法では、欠陥を検出するだけではなく、GaN半導体の製造および性能評価プロセス改良への貢献が期待されます。また、他の半導体の高品質化に繋げる取り組みもを実施していきます。

ラマン分光分析装置。光を物質に当て、はね返る光の波長の違いなどを調べて、応力、温度、電気、特性、配向・結晶性などがわかる。

サンプル(試料)の中の測定したい位置を、横にあるモニターを見ながら探す。

レンズを100倍に合わせて細かいところを見ていく。

論文情報

雑誌名:Applied Physics Express
論文タイトル:Detection of Edge Component of Threading Dislocations in GaN by Raman Spectroscopy
著者:Nobuhiko Kokubo, Yosuke Tsunooka, Fumihiro Fujie, Junji Ohara, Kazukuni Hara, Shoichi Onda, Hisashi Yamada, Mitsuaki Shimizu, Shunta Harada, Miho Tagawa, and Toru Ujihara
掲載日:平成30年5月22日(英国時間)