DNAの塩基配列*を利用してナノ粒子*を結晶化

大がかりな装置や大きなエネルギーを使うことなく、私たちの体にもあるDNA分子をナノ粒子に結合させ、その塩基配列を利用して、自然に寄せ集めただけではできないような、例えばAという粒子とBという粒子はくっつくけれど、Cとはくっつかない、などといった並び方を設計してコントロールすることにより、ナノ粒子本来の性能を向上させたり、新たな特性を発現させる構造の結晶成長を研究しています。

*塩基配列=リボ核酸 (RNA)とデオキシリボ核酸 (DNA)の分子内での、4種ある塩基の並ぶ順序。遺伝情報の発現はこれによる。
*ナノ粒子=一般的には、1~数百nmの大きさの粒子のこと。金属、半導体などの粒子ももちろん含まれる。(1nm=10-9m=0.000000001m)

1.研究の背景

人間がどんなに物を作ろうと、生体の巧妙さに追いつくことはできません。そして、その一番もとになるのは、DNAの塩基配列です。そこから始まって、たんぱく質を作って、組織を作っていきます。本研究室では、そういった生体の力を利用して、粒子サイズの結晶成長をコントロールし、生物学のみならず、材料工学に生かすという、新たな試みに取り組んでいます。

2.研究内容

■原子や分子が見える

「光」は扱える波長に限界がありますが、ナノ粒子の集合体の、ナノの領域に閉じ込められた光には、普通の光には考えられないような性質があり、その性質を使うと、光学顕微鏡では見えないはずの原子や分子が見えます。原理的には可能です。

■超高感度のバイオセンサー

規則的にナノ粒子とナノ粒子を並べると、粒子の間の電場がものすごく増強されるという反応があり、ある特定の測定方向の感度(シグナーの強度)が、106倍ほどに高まります。そういった反応を利用すると、今まで見えなかったような低い濃度のものでも、超高感度のバイオセンサーにも使えるといった構造を作る研究もしています。

(ナノ粒子を利用した一般の例)インフルエンザの検査

一般的には、球状の金ナノ粒子*はインフルエンザの迅速診断キットで用いられるイムノクロマトフィ法で利用されています。原理は、抗原抗体反応を利用した免疫法による次のようなものです。判定部にインフルエンザA型とB型それぞれのウイルス核タンパクに対する抗体をライン状に塗布。反応の場(メンブレン)に検体が毛細管現象によってしみていく方式で、検体に含まれるインフルエンザの抗原が、判定部の抗体と結合すると、試薬の発色成分によって、青色や赤紫色に見えるというしくみです。

*金ナノ粒子=金のナノ粒子は、毒性が低く生体との相性が良いほか、合成が容易、表面積が大きい、表面修飾が容易、ユニークな光学特性を持つなどの特性が知られています。

水の中に金のナノ粒子が入っています。

金の粒子が赤く見えるのは、粒子の上で動く金の電子が波長の短い光である青や緑のエネルギーを吸収するから(光の3原色は赤・青・緑)人間の目には赤く映る。ちなみに、中世のヨーロッパに建造された教会のステンドグラスは、金ナノ粒子を使って鮮やかな赤色を発している。

実験室の様子