リチウムバッテリーの劣化を結晶成長の観点から制御する

ノートパソコンや携帯電話、EV車に搭載されているリチウム2次バッテリーをさらに高性能にするために、新たな負極材料として望まれているのが金属リチウムですが、充電することにより、デンドライトというまるで樹枝のような結晶(画像)が内部に発生し、バッテリー性能の劣化や内部でのショート(短絡)を引き起こすことがわかっています。

宇治原研究室では、デンドライト発生のメカニズムを結晶成長*の観点から解明して制御することにより、リチウムバッテリーを更なる高性能化につなげる研究をしています。

*結晶成長=結晶を増大させること

1はじめに

電池の性能を最もよく表すのは、エネルギー密度と呼ばれる電池の質量あたり、もしくは体積あたりで取り出すことのできるエネルギーの量です。

エネルギー密度の高い電池を実現するには、電池反応に寄与する正極活物質と負極活物質の酸化還元電位の差をなるべく大きくとり、さらにそれぞれ活物質の電気化学当量をできるだけ小さなものを選べば良いということになります。

リチウムを活物質として用いた電池はこの条件を最もよく満たすため、究極の高性能電池と考えられていますが、さらに高性能にするため様々な負極活物質が検討されています。

2リチウム電池の開発史

リチウム電池の開発は1958年にHarrisがリチウム塩を溶解させた有機溶媒からリチウムの電析に成功したことに始まります。日本においては、1970年代はじめに世界に先駆けてリチウム金属一次電池が実用化され、現在のリチウムイオン電池にも必要な技術的基盤が築かれました。その後20年近くの歳月を経て、充放電可能な二次電池が開発されました。

現在はソニーによって商品化されたリチウム吸蔵カーボン負極(グラファイト負極)を用いたリチウムイオン電池が普及しています。しかし、現在その理論値の90%以上に達しているため、今以上の性能向上は望めません。そこで、新たな負極材料として望まれているのが金属リチウムです。

3.金属負極のデンドライト(樹枝状結晶)

金属リチウムを負極に用いれば、格段に電池の能力を上げることができます。 しかし、それには様々な問題が残されています。その一つは、充電時に負極にできる負極の変形(デンドライトの発生)です。デンドライトは、まるで樹枝のような、あるいは海底にあふれ出た溶岩が吹き固まったような形態でどんどん大きくなり、リチウムの充放電効率を悪くするばかりか、負極と正極を分けているセパレ—タを突き破ると電池内でショートが起こり(短絡)、発火・爆発にもつながってしまいます。

バッテリーのさらなる高性能・高寿命化は、すでに進みつつあるIOT社会*において必須と考えられます。宇治原研究室では、結晶成長の観点から、このデンドライトの発生過程を調査し、金属負極の劣化を抑制する、すなわちリチウムバッテリーを、安全を保持したまま、飛躍的に高性能・高寿命化するための研究に挑んでいます。

*IoT社会=Internet of Things(モノのインターネット)とは、モノがインターネット経由で通信することを意味します。それは、全てのモノに電源が必要となることを意味し、今以上の高性能・高寿命バッテリーが望まれています。

亜鉛のデンドライトの芽。これがデンドライトに進行する。

金属基板の結晶方位を変えると、デンドライトが出にくくなることが分かった。

グローブBOX。電解セルを組み立てる。

アルゴンガスを入れて作業中。

EBSD(=Electron Back Scattered Diffraction Pattern:電子線後方散乱回折)する顕微鏡。除振台付きの箱に入っている。試料に電子を当てて、はね返った原子を見て、結晶方位を測定する。

作業中

検討しているところ